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2009.05.03

『東洋宮武が覗いた時代』感想

東洋宮武が覗いた時代』観てきました。こんな面白いドキュメンタリーが都内では写真美術館だけ(5/9〜シネマート六本木でも公開)、神奈川はジャック&ベティだけだなんて、邦画バブルもここに極まれりですね。しかも観客は俺ともう一人だけでしたよ(inジャック&ベティ)。とほほ。
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太平洋戦争勃発(真珠湾攻撃)により収容所に閉じ込められた日本人及び日系人約12万人。その半数以上がアメリカ市民権を持っていたらしい。しかも同じ敵国であるドイツやイタリア系の人たちに対してはそういう強制収容は取られていなかった。アジア(日本)人に対する露骨な差別。その強制収容所のひとつのマンザナ収容所。写真家の東洋宮武は本来なら禁止されている収容所内へ密かにカメラを持ち込み、そこでの生活を克明に記録していた。

だが、本来なら撮れるはずのない写真が何故撮れたのか?それは、写真に造形の深い収容所所長や東洋宮武が師と仰ぐエドワード・ウェストンや写真界の巨匠アンセル・アダムスの協力があったればこそだった。国家・世論としては圧倒的に排日・反日の状況ではあったが、日本人に対する差別に異議を唱える人々が存在したことも確かな事実だ。

また収容所の中でも1世と2世の考え方の違いによる対立が浮かび上がってくる。そして2世によるアメリカ軍422部隊が結成される。彼らの証言。

ざっとこんな内容が東洋宮武が撮った写真を中心に、存命する(強制収容所で暮らしていた)2世の人たちのインタビューを交えながら語られていきます。東洋宮武が撮った写真に写る人々は思いのほか明るい顔をしています。収容所の生活も、これまでの生活のリズムを崩さないようにと、様々な行事が行われていたようです。例えばナチスの強制収容所とかから浮かべるイメージとはかなり違った印象です。

それでもそこは鉄条網で囲まれた荒涼とした大地の真ん中であることに変わりはなく、それまでの財産もアメリカ人としての誇りも何もかもが奪われた、明日の知れない生活に違いはないのでした。

国家・民族・差別・誇り。そこに見えてくるのは過去の話ではなく、今も変わらない人間の愚かさと尊さの構造。9・11以降のアラブ人に対するアメリカ社会とか。結局我々は何も学んではいない。それでも信じて進んで行くしかないのだろう。先人の残した記録を無駄にしないように。

と、非常によい作品なのでしたが、個人的に唯一気に入らなかったのが喜多郎の音楽。シルクロードじゃないんだからさ。しかもほぼ全編に渡って鳴ってるし。うーん、俺的にはこの映画にあの音楽は違うなあ。残念!

『東洋宮武が覗いた時代』公式サイト

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川崎市民ミュージアムで東洋宮武の写真作品展やってます(4/16〜6/28)。入場無料。ここは東洋宮武の日本(世界?)最大のコレクションを誇っているらしいです。昔は武蔵中原から歩いてよく行ったなぁ。久しぶりに行ってっこようかしら。

◇マンザナ強制収容跡地(Manzanar concentration camp)

大きな地図で見る

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それにしてもこの映画といい『ウォー・ダンス』といい、戦争とはいえ実際に人を殺したことのある人の言葉は重みがありますね。『グラントリノ』でイーストウッドが朝鮮戦争で人を殺した時の話をしますが、あれはイーストウッドだからこそのリアリティはありましたが、やはりフィクションとして見てますから安心してられる部分がありますが、422部隊の人の証言は変に深刻ぶってないだけ余計に怖い。『ウォー・ダンス』の14歳の少年は目が座ってて怖かった。一度あっちへ行ってきた目なのかも。といってもこっちがドキュメンタリーだと思って見てるからの思い込みかもしれませんがね。

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ミリキタニの猫』というこれもドキュメンタリー映画がありましたね。このミリキタニさんも強制収容所にいた人で、彼がいたのはツールレーク収容所といい、そこはアメリカに忠誠を誓わなかった人たちが送り込まれたところらしいです。つまり東洋宮武たちがいたマンザナよりより過酷なところですね。

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